SBテクノロジー CX ユニットの児玉です。
Web サイトやアプリを改善する際に PV が~、CV が~、KPI が~、KGP が~、などとやたらとアルファベット略語で話をする機会が増えたかと思います。ただでさえこの略語を理解するのに大変な中、ふと「ユーザビリティ」というなじみ深い言葉が出たときに、その言葉がどの範囲を指すのか一瞬混乱することはないでしょうか。
例えば、何かの会議や資料で「PV を増やすためにユーザビリティの改善は必須です」と出てきた時、PV とユーザビリティ?どんな関係性だっけ?と迷わずに、この文脈が適切かパッと判断できる知識をこの記事で皆様におさらいしていただければと考えています。
まずはユーザビリティの言葉の意味をおさらいしたいと思います。
ユーザビリティ(usability)は、「use」と「ability」を掛け合わせた造語です。「使いやすさ」や「使い勝手」などと訳されることが多く、様々な考え方が存在していますが、1998年に定められた国際規格「ISO 9241-11」では以下のように定義されています。
ユーザビリティ(usability):特定の利用状況において、特定のユーザによって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、ユーザの満足度の度合い。
ここでポイントとなるのは、ユーザビリティは単に使いやすさを指すものではなく、「特定の利用状況」で「特定のユーザ」が「指定された目標」を達成する際の効率や満足度を指している、という点です。
つまりユーザビリティとは「誰が、どんな状況で、何を目的に使用するか」によって最適化され、評価されるものであると言えます。
ユーザビリティと UX の関係は手紙に例えるとわかりやすいです。手紙の開封のしやすさ、読みやすさがいわゆるユーザビリティが指す内容です。UX は誰からの手紙か、手紙を受け取るシチュエーションなど手紙を受け取り読んだ時、どんな気持ちになるかというところにフォーカスしています。同じ手紙でも憧れのあの人からもらうのと、面識がないあの人からもらうのでは随分印象が変わるという現実を UX では考えるということになります。
なんとなく、ユーザビリティと UX では UX の方が新しい言葉というイメージはないでしょうか。実はそんなことはないようです。UX という言葉は1990年に刊行されたドナルド・ノーマン氏の著書『誰のためのデザイン?―認知科学者のデザイン原論』で確立されたという見方が多く、1998年に国際規格としてユーザビリティが定められた時期と比べるとそこまで大きな差があるわけではなさそうです。
近年、ビジネスシーンでよいものを作るためには UX を考慮することが必要となり UX が皆さんの前によく姿を現すようになった、ということのようです。
より幅広く物事を考える必要が出てきた結果、実はユーザビリティが関与しない部分も考慮することとなりました。前述の手紙の例をとると、例えばロマンティックなシチュエーションで手紙を渡したい、と思ったときにいくら手紙のユーザビリティに配慮してもロマンティックなシチュエーションにはなりません。それを理解できず手紙の内容にばかり固執すると、最高に読みやすくした手紙を渡せたけどなんかロマンティックなシチュエーションじゃなかったな、と後悔することになるでしょう。
手紙の例はすごくわかりやすい比喩ですので、そんなバカな、と思うかもしれませんが、ビジネスシーンではいかがでしょうか。前述のロマンティックなシチュエーションほどの勘違いはしてないかもしれませんが、実は目的に対して効果が薄そうな施策を打っているというシチュエーションは意外と多いのかもしれません。
さて、ここまで読んでくださった皆さんは、記事の冒頭にあったこの文脈がやや的が外れであるとお気づきになったのではないでしょうか。
PV(Page View、ページビュー)とはアクセス数の単位ですので、増加させるにはユーザビリティの改善よりもまず外部へ周知させる施策が必要となってきます。
例えば、最も一般的かつ効果的な手段として、Google などの検索エンジンでの露出を増加させる SEO 対策があるのは皆さんご存じかと思います。その他、SNS の利用や Web 広告の活用、内部リンクの最適化など様々な施策があります。ページの使いやすさを向上させるユーザビリティ改善では外部から流入を増やす必要がある PV 増加に効果的とは言えません。
例えば、PV を CV(Conversion、コンバージョン)に置き換えた場合はどうでしょうか。「CV を増やすためにユーザビリティの改善は必須です」。
CV とは、Web サイトを訪問したユーザがお問い合わせや資料請求をする、商品を購入するなど、Web サイトの最終的な成果につながった行動のことを指します。
通販サイトを例に挙げると、商品が探しづらい、購入の流れが分かりにくいなど、サイトの使い心地が悪ければ、ユーザは商品購入に至らずサイトを離脱してしまうでしょう。反対に、欲しい情報にスムーズにたどり着くことができる、操作が分かりやすいなど、ユーザビリティが十分に考慮されたサイトでは、商品購入の機会、つまり CV がぐっと高くなると考えられます。
「CV を増やすためにユーザビリティの改善は必須です」であれば、特定の目的を持ったユーザのためにサイトやページの使いやすさを見直すことは効果的と思われるため、適切な表現と言えます。
いかがだったでしょうか。普段何気なく目にしている「ユーザビリティ」も、こうして改めて整理してみるとその重要性を再認識させられます。これで会議中や何かを設計する際にふと「ユーザビリティ」という単語に遭遇しても、混乱することなく論理立てて考えられるのではないでしょうか。
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