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「2021年の法改正で民間事業者もアクセシビリティ対応が義務化」と聞いても慌てないために

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SBテクノロジー CX ユニットの児玉です。

アクセシビリティ対応が義務化。聞くだけで恐ろしい響きを持った言葉です。私は実はウェブアクセシビリティの資格を取得しており、ある程度の知識は持っているのですが、それでもこのニュースを聞き「アクセシビリティ対応してないと公開できないってこと!?」「今ある全ページアクセシビリティ検査して改修するの!?」と戦々恐々としておりました。

調べていくうちに、ここがわかりにくいから不安になるのだ、というふたつのポイントが見えてきました。まず障害者差別解消法改正の経緯や、施行に向けたスケジュールがつかみにくいことです。そしてここが最大のポイントなのですが、Web サイトにおいて何をどの基準で対応すればよいかがわかりにくいです。このふたつがわかると今の状況がつかめ、安心感が生まれます。そうするとアクセシビリティ対応にも落ち着いて取り組めると思いますので、この記事ではこのふたつのポイントを整理しお伝えできればと思っております。

不安を生むポイント。障害者差別解消法のタイムラインがわかりにくい。Webサイトにおいて、何をどの基準で対応すればよいかわかりにくい。
授業の始まりのようなイメージ写真

改正障害者差別解消法施行までのタイムライン

平成25年(2013年)に制定された障害者差別解消法ですが、障害を理由とする差別の解消の一層の推進を図るため、令和3年(2021年)に改正法が成立、公布されています。現在は改正法の効力が一般的、現実的に発動し、作用することになる施行に向けた準備期間にあたります。ではこの改正法の施行によりいったい何が変わるのでしょうか。

最も大きな違いは、改正前は行政機関等にのみ義務化されていた「合理的配慮」の提供が、事業者にも「努力義務」ではなく「義務」として課されるようになることです。

では「合理的配慮」の提供とはいったい何でしょうか?内閣府によるリーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」 では下記の通り説明されています。

  • 日常生活・社会生活において提供されている設備やサービス等については、障害のない人は簡単に利用できても、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動などが制限されてしまう場合があります。
  • このような場合には、障害のある人の活動などを制限しているバリアを取り除く必要があります。このため、障害者差別解消法では、行政機関等や事業者に対して、障害のある人に対する「合理的配慮」の提供を求めています。

出典:「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」|内閣府|P4

また「合理的配慮」の提供の具体例として、下記のようなケースが紹介されています。

合理的配慮の具体例。合理的配慮の内容は個別の場面に応じて異なるものになりますので、以下の例はあらゆる事業者が必ずしも実施するものではないこと、また以下の例以外であっても合理的配慮に該当するものがあることに留意しましょう。
物理的環境への配慮(例:肢体不自由)【障害のある人からの申出】飲食店で車椅子のまま着席したい。→【申出への対応(合理的配慮の提供)】机に備え付けの椅子を片付けて、車椅子のまま着席できるスペースを確保した。 意思疎通への配慮(例:弱視難聴)【障害のある人からの申出】難聴のため筆談によるコミュニケーションを希望したが、弱視でもあるため細いペンや小さな文字では読みづらい。→【申出への対応(合理的配慮の提供)】太いペンで大きな文字を書いて筆談を行った。 ルール・慣行の柔軟な変更(例:学習障害)【障害のある人からの申出】文字の読み書きに時間がかかるため、セミナーへ参加中にホワイトボードを最後まで書き写すことができない。→【申出への対応(合理的配慮の提供)】書き写す代わりに、デジタルカメラ、スマートフォン、タブレット型端末などで、ホワイトボードを撮影できることとした。

出典:「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」|内閣府|P4

ウェブアクセシビリティを含む情報アクセシビリティも、「合理的配慮の提供」を的確に行うために必要となる「環境の整備」として位置づけられています。改正法施行後は、障害のある人から何らかの申出があったときには、事業者であっても負担が重すぎない範囲で対応することが求められます。行政機関等及び事業者は、事前的改善措置として計画的にアクセシビリティ対応を推進することが求められています。

改正法は令和6年(2024年)4月1日から施行されます。期日までかなり迫っていることが実感できると思います。

2013年6月障害者差別解消法成立・公布→2016年4月障害者差別解消法施行→2021年5月改正障害者差別解消法成立→2021年6月改正障害者差別解消法公布→現在→2024年4月1日改正障害者差別解消法施行

参考:
障害を理由とする差別の解消の推進|内閣府
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律の概要(令和3年法律第56号)」|内閣府
「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」|内閣府
「公的機関に求められる ウェブアクセシビリティ対応」|総務省
法律ができるまで|内閣法制局

Web サイトのアクセシビリティをどの基準で対応すべきか

スケジュール感をつかんだところで、では Web サイトの何をどう整えればよいのでしょうか。スクリーンリーダーで情報が伝わるようにする? キーボードだけで操作できるようにする?ぼんやりとしたイメージはあっても、対応事項は多く、規格も複雑…。実際に何をどのレベルで対処すればいいのか、不安に思う方も多いのではないでしょうか。

結論から言いますと Web サイトなどの対応基準は現時点(2023年5月22日執筆時)で明確に定められていません。ガイドラインとしては世界で標準的に使われている WCAG と、その一致規格の JIS 規格があります。総務省による手順書「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」では、公的機関の Web サイトは JIS X 8341-3 の適合レベル AA に準拠することが目標とされています。WCAG 2.1や 2.2などのより新しい基準に対応することも検討しておく必要はありますが、ひとまず自治体と同等の AA 基準を目標とするのがよいと思います。

参考:
「みんなの公共サイト運用ガイドライン(2016年版)」|総務省
「ウェブアクセシビリティ 導入ガイドブック」|デジタル庁

スマホを見ている老夫婦の写真

忘れてはいけないアクセシビリティの大切なポイント

デジタル庁「ウェブアクセシビリティ 導入ガイドブック」によると、ウェブアクセシビリティの恩恵を受ける人は、日本だけで少なくとも428万人以上と言われています。障害者や高齢者はもちろん、「電車内で動画を見たいのにイヤホンを忘れた」「利き手を怪我してマウスが使えない」というような方も、一時的に障害がある状態として、ウェブアクセシビリティの考慮の対象とされています。アクセシビリティ対応は少数派のための特別な措置とはもはや言えないでしょう。

「アクセシビリティ対応が義務化、達成基準の必達」と聞くと達成基準をクリアすることが目標と感じてしまいますが、不自由な状態にある方に Web サイトをどう快適に使ってもらえるか、どう情報を届けることができるか、ということにフォーカスしてみてはいかがでしょうか。そういった気持ちで取り組めば、気負わずとも自ずと達成基準をクリアすることができるかと思います。

私がアクセシビリティの資格を得てアクセシビリティについて考える中で得た感覚ではありますが参考にしていただけますと幸いです。

参考:
「ウェブアクセシビリティ 導入ガイドブック」|デジタル庁

人々が手をつないでいるイメージ写真

さいごに

まとめますと、改正された障害者差別解消法は2024年4月1日に施行される。Web サイトにおいて、何をどの基準で対応すればよいかはまだはっきりとした指針はでていないが、公的機関の Web サイトは JIS X 8341-3 の適合レベル AA に準拠することが目標とされている。
これだけ覚えていただければ現状できることは理解できるかと思います。今後の動向にアンテナを立てておくのも大切になってきます。

CX ユニットでは資格保有者によるウェブアクセシビリティ検査を行っております。他にもヒューリスティック調査や Web サイトのデザイン制作など、UI / UX / CX の改善や支援を行っています。ご相談がありましたら、是非お問い合わせください。

本記事は、執筆者の私見によるものであり、SBテクノロジー株式会社の会社としての見解を代表するものではありません。実際の解釈適用に当たっては、ご本人の責任においてご確認ください。

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