お客様名 | 西日本旅客鉄道株式会社様 |
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業種 | 運輸・物流業 |
企業規模 | 5001人以上 |
目的・課題 | AI による生産性向上 , 検索エクスペリエンスを向上 , AI でのイノベーション強化 |
キーワード | IoT・AI・機械学習 , Microsoft Azure , 業務効率化 , データ分析・活用 , 生成 AI , Azure OpenAI Service 活用 , RAG |
膨大な業務資料から必要な情報を探し出す手間が課題に
2023年度に、西日本旅客鉄道(以下、JR西日本)は、未来社会を見据えたグループの存在意義を「私たちの志」と定め「人、まち、社会のつながりを進化させ、心を動かす。未来を動かす。」を掲げた。安全、安心を追求し高め続けるとともに、西日本を起点に持続可能で活力ある未来の創造に貢献していく。
JR西日本は、「私たちの志」実現に向けて「グループデジタル戦略」を進めている。戦略は、1.顧客体験の再構築、2.鉄道システムの再構築、3.従業員体験の再構築の3つで構成されている。「3つの再構築実現に欠かせないデジタル技術として生成 AI を捉えています」と、同社 鉄道DX部 部長 真嵜 弘行氏は話し、こう続ける。「生成 AI の活用に関して、要約、タグ付けによる仕分け、自社データを活用する RAG(検索拡張生成)といった機能を中心にさまざまな取り組みを進めています」
従業員体験の再構築で生成 AI を活用した取り組みの1つが、情報検索・業務支援システムだ。生成 AI の活用により、検索だけでなく要約など業務プロセス改革につながる。鉄道DX部が検討を進める中、駅の新設や新線建設などを行う大阪工事事務所から情報検索について相談があったという。従来の課題について同事務所 ICT・業務変革担当課 宮下 純平氏は話す。「膨大な業務資料からの情報検索に多大な工数と時間がかかると同時に、若手がベテランに頼る習慣がベテランの定年退職時に業務に支障をきたすことが懸念されます。倉庫に保管されている膨大な紙資料も含め、データの一元化・活用に向けて将来を見据えた効率的な情報検索の仕組みが必要でした」
生成 AI を活用した業務資料検索とはどのようなものか。鉄道DX部は、大阪工事事務所をモデルケースとして PoC(概念実証)を実施し、その可能性を検証することにした。
Azure OpenAI Service を基盤に採用、PoC 環境を約1カ月で構築
生成 AI を活用した業務資料検索の PoC では、Azure OpenAI Service(以下、Azure OpenAI)を基盤とすることにした。JR西日本は Azure OpenAI をベースに社内向けチャットサービスとして ChatGPT を展開しており、その実績に基づく選択だ。2023 年 8 月に、PoC 実施に向けてベンダー選定が始まり、生成 AI という新領域で事例も少ないことから幅広く声をかけたと、同社 鉄道DX部 DX企画 堀 達広氏は振り返る。
「2023年度中に PoC で、生成 AI を活用した業務資料検索の効果を検証できることが条件でした。当時、Azure OpenAI の環境構築は手探りの段階で、くわえて構築期間が実質2カ月と短期間であったため、提案まで進んだのは4社に限られました。さらに、検索専用サービスとの比較を同時におこなう必要があり、PoC で扱えるデータ量が制約される中でも高い精度が求められる難しい条件でした」
最終的に SBテクノロジーを選択した理由について堀氏は話す。「社内でも Azure OpenAI を利用した成果を上げており、他の企業様との生成 AI 活用に関する共同実証の実績もお持ちです。『社内実践で培った豊富なノウハウを駆使すれば短期間でも十分対応可能』という言葉に強い説得力を感じました。確かな実績と具体的な提案力が選定の決め手となりました」
多くの課題にも柔軟かつ速やかに対応する技術力を高く評価
フェーズ1では PoC 環境を構築し数十ファイル程度で利用感や回答内容を確認。フェーズ2では約6万のファイルを実利用想定で検索体験の検証を進め、さまざまな課題の解決・改善に対応していった。
検証・改善を進めるなかで、セキュリティポリシーの制約でデータを収集・蓄積しているクラウドコンテンツ管理ツール Box に、構築したシステムが連携できないことが判明。「数百ぺージに及ぶファイルを Box から個別にダウンロードし、個人情報を目視で確認し、当該ページを削除したうえで、1ファイルずつ Azure にアップロードする作業を繰り返しました。そのため、検索対象ごとに数十ファイルでの検証が限界でした」(宮下氏)
そこで、課題を解決するために Box からダウンロードしたファイルを、ドラッグ & ドロップでフォルダ単位で容易に Azure にアップロードできるうえ、ファイルの中から個人情報を特定しマスキングを自動で施す機能を実装。「最終的に約6万ファイルでの検証が可能になり、SBテクノロジーの柔軟な対応力と卓越した技術力がなければ、PoC の成功はあり得ませんでした」(堀氏)
また、ハルシネーション対策や利便性の観点から、回答元の情報提示やファイル内容を端的に理解するために自動でタグを付与することで利便性を高める機能を実装、さらには RAG による検索精度を向上するための機能開発も次々とおこなった。
ハイブリッド検索を用いた RAG で精度向上、GPT-4o により検索時間が半減
鉄道施設の建設プロジェクトに関わる業務では、品質管理や安全性などに関して確実な根拠が求められる。「今回の PoC を通じて、業務中にデータを検索したり、人に聞いて情報を探したりする作業に多くの時間を費やしている現状を再認識しました」と、同社 鉄道DX部 DX推進 梶村 達志氏は話す。同氏は PoC 時に大阪工事事務所に在籍していた。
「当初、生成 AI を活用した検索システムは、キーワード検索のみで精度に課題がありました。しかし、Azure 上で扱うファイル数が増えた段階で、SBテクノロジーの迅速な機転により『ベクトル検索を実装した』との報告がありました。従来 Box ではキーワード検索が主流で、正確な文言を覚えていないと、情報を取り出せず、思いつくワードで検索を繰り返す必要がありました。ベクトル検索では、関連性の高い単語や文章が検索され、候補の中から選ぶだけで済むようになりました。さらに、キーワード検索とベクトル検索を組み合わせたハイブリッド検索を RAG で活用することで、より精度を高めることができました」(梶村氏)
PoC 当初は検索スピードにも課題があった。OpenAI 社が開発した対話型AI「GPT-4」を活用した検索では結果が出るまで 2分を要していた。2024年5月にリリースされたばかりの最新モデル「GPT-4o」をすぐに実装し検証。「GPT-4o を活用した結果、検索スピードは1分以内に短縮され、GPT-4 と比較して処理時間は半減しました。検索結果の待ち時間が長いとストレスを感じます。GPT-4o ならストレスフリーな検索を実現できると感じました」(梶村氏)
大阪工事事務所で、生成 AI を活用した検索システムの活用対象は、業務規程などの正解が記載されているものと、過去の事故情報や施工計画書などの実績が記載されているものと大きく2種類ある。「業務規程に関しては、求めていた回答が得られ、必要な業務資料を人に尋ねることなく、必要な時に即座に検索し利用できる未来が見えてきました。過去の事故情報や施工計画書の検索では、生成 AI が活用できるデータの量と質の向上を図ることが次のステップになると考えています」(宮下氏)
建設部門での業務活用に有用性を実証、今後の方向性が明確化
今回の PoC では、生成 AI を活用した検索体験をテーマとした。資料の要約に関しては社内 ChatGPT で有効性を確認済みだ。生成 AI を活用した検索・業務支援システムの展開では、全社と部門の2つの観点があると堀氏は話し、説明をくわえる。
「全社観点では、業務で活用が進む社内版 ChatGPT に業務資料を取り込み、検索や業務支援をおこなう展開を考えています。AI によって業務データを活用する取り組みはさまざまなシーンで検討・進行中で、内製、SaaS、外部ベンダーとの連携などアプローチ方法は多岐にわたります。一方、部門観点では大阪工事事務所のように、専門用語や図面情報など特有の情報を扱うため、業務に特化したシステムが求められます。SBテクノロジーの支援のもとで実施した今回の PoC は、建設部門で役立つという知見を得るとともに、業務プロセス改革や生産性向上に寄与する方向性が正しいことを確認できたため、今後の取り組みが加速できると期待しています」
プロジェクトマネージャーを担当した SBテクノロジーの田村は、今回の PoC は、業務プロセス改革に向けて、生成 AI を活用した検索・業務支援システムの有効性を確認するという重要なステップであったと振り返る。「専用ツールに比べて先進性や発展性があることを実感していただくため、随時最新の機能を実装しました。大阪工事事務所 ICT・業務変革担当課様は、当社の提案をご理解いただき、評価してくださいました。また、鉄道DX部様とも信頼関係を構築できたことで、今後もJR西日本様の視点に立った提案を通じてご期待に応えていきたいと思います」
今回の PoC をきっかけに、信頼できるパートナーとして SBテクノロジーを認識できたと、真嵜 弘行氏は話し、こう続ける。「難易度の高い要求に応えてくれたことはもとより、そのプロセスにおける技術力や提案力、対応力を高く評価しており、大きな信頼を寄せています。生成 AI だけでなくデジタル技術を活用したソリューションを一緒に考えてもらいたいと思っています」
西日本地域の産業や暮らしを支える JR西日本。SBテクノロジーは総合力を駆使し同社の期待に応えていく。
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