掲載日:2025/3/14

「SAPの2027年問題」は、SAP社のERPシステムを導入している多くの企業が直面する課題です。
企業の対策状況は、すでに完了している企業から、現在対策中の企業、これから対策を始める企業までさまざまです。SAPのスキルを持つエンジニアは、2027年問題をよく理解することで、自社のプロジェクトや転職先での活躍のチャンスが広がるでしょう。
本記事では、SAPの2027年問題の概要や企業にもたらすリスク、具体的な対策のポイントをわかりやすく解説します。
SAPの2027年問題とは

「SAPの2027年問題」とは、SAP社が提供する「SAP ERP 6.0」および「SAP Business Suite 7」の標準サポートが2027年末で終了することを意味します。対象製品を導入している多くの企業が対応を迫られています。
SAPは、ドイツの大手ソフトウェア企業SAP社が提供する、世界シェアNo1のERPシステムです。会計や人事、生産、販売など幅広い業務を統合的に管理するシステムとして、世界中の企業で導入されています。日本国内でも、SAP ERP 6.0を導入する企業は、大企業を中心に2,000社以上にのぼります。
当初、サポート終了は2025年末に予定されており、経済産業省が警鐘を鳴らす「2025年の崖問題」の一因ともされていました。しかし、ユーザー企業の移行負担を考慮し、SAP社はサポート終了期限を2027年まで延長しています。問題はいったん先送りされたものの、2027年が間近に迫っている現在、影響を受ける企業は早急な対応が必要です。
関連記事:2025年の崖とは?目前に迫る危機の原因と克服のための対策を解説
SAPの2027年問題が企業にもたらすリスク

SAP社の標準サポートが終了する2027年問題に適切に対応しなかった場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか。
主な3つのリスクを解説します。
システムトラブル時の対応困難
リスクの1つ目は、システムトラブル時の対応が困難になる点です。
SAP社からのサポートが受けられなくなるため、システム障害やエラーが発生した場合の復旧に多くの時間がかかります。また、法改正や制度変更に伴うシステム更新も行われなくなるため、業務に支障をきたす可能性もあるでしょう。
その結果、システムのダウンタイムの長期化や業務停滞のリスクが高まり、企業の事業継続に深刻な影響を与える可能性があります。
セキュリティリスクの増大
セキュリティリスクの増大も、大きな懸念の1つです。
SAPのサポートが終了し、セキュリティパッチの提供が停止すると、最新の脅威に対応できなくなります。その結果、サイバー攻撃や不正アクセスのリスクが増大し、企業の重要なデータや機密情報が危険にさらされる可能性が高まるでしょう。
セキュリティインシデントを引き起こした場合には、取引先や顧客からの信頼を失い、企業経営に影響を与えることも懸念されます。
ビジネス競争力の低下
SAPのサポート終了後は、機能がアップデートされなくなるため、最新の機能や技術を活用できなくなります。
SAP社の後継システムや他社の最新ERPを利用してデジタルトランスフォーメーション(DX)を進める競合他社に比べて、ビジネス競争力の低下は避けられません。また、旧システムの維持に多くの人材や資金を割かれることで、新規事業や戦略的なIT投資へのリソース配分が制限されることになります。
結果として、顧客ニーズへの迅速な対応や市場変化への適応が困難になり、企業の成長や革新の阻害につながるでしょう。
SAPの2027年問題への対策の選択肢

企業がSAPの2027年問題に対応するためには、大きく以下の3つの選択肢があります。
・SAP S/4HANAへの移行
・別のERPサービスへの移行
・延長保守で利用を継続
それぞれの内容を解説します。
SAP S/4HANAへの移行
SAP S/4HANAへの移行は、SAP社が推奨する2027年問題への基本的な対策です。
SAP S/4HANAは、SAP ERP 6.0の後継製品であり、最新の技術を活用した高いパフォーマンスと拡張性を備えています。SAP S/4HANAへの移行には、最新の機能や技術を活用できることに加え、SAP社による将来的なサポートを受けられる点も大きなメリットです。
ただし、SAP S/4HANAへの移行には、業務プロセスの再設計やデータ移行、ユーザートレーニングなどの多くの時間とコストがかかります。成功させるためには、十分な計画とリソースが不可欠です。
別のERPシステムへの移行
SAP ERP 6.0のサポート終了を契機に、別のERPシステムに移行することも、有力な選択肢の1つです。
SAP社以外にも、国内外のさまざまなITベンダーがERPシステムを提供しています。例えば、Microsoft Dynamics 365やOracle Fusion Cloud ERPなどが代替候補として挙げられるでしょう。各システムが独自の強みを持っているため、自社のニーズにより適したシステムが見つかったり、コストを削減できたりするかもしれません。
ただし、他社のERPシステムへの移行には、SAP S/4HANAへの移行以上に大規模なデータ移行や業務プロセスの再構築が必要となる可能性が高いでしょう。慎重な検討と十分な準備が必要です。
延長保守で利用を継続
延長保守を利用して、SAP ERP 6.0を継続利用する選択肢も残されています。
SAP社は2027年末までの標準サポートに加え、追加料金を支払うことで2030年末まで延長保守を提供しています。延長保守では、現行のサポート料金に加えて2%の追加料金が必要です。また、延長保守ではなく、サードパーティーの保守サービスを利用する選択肢もあります。
ただし、新機能の追加や改善は期待できないため、長期的にはビジネス競争力の低下につながる可能性が高いでしょう。延長保守はあくまで一時的な延命措置と捉え、この期間を利用して新システムへの移行準備を進めることが必要不可欠です。
最新ERPソリューション「SAP S/4HANA」の特徴

SAP社の最新ERPソリューションである「SAP S/4HANA」は、最新の技術を活用したさまざまな特徴を備えています。
SAP S/4HANAの主な3つの特徴を紹介します。
インメモリデータベースによる高速処理
SAP S/4HANAの大きな特徴は、インメモリデータベース技術を採用し、従来のERPシステムと比べて格段に高速なデータ処理を実現している点です。
インメモリデータベースは、データをメモリ上に保持するため、従来のディスクベースのデータベースと比べて処理速度が大幅に向上します。これにより、リアルタイムで高度な分析や予測ができ、意思決定の迅速化が可能です。
柔軟な導入形態
SAP S/4HANAは、従来のオンプレミス型に加え、クラウド型やハイブリッド型など、企業のニーズに応じた柔軟な導入形態を選択可能です。
クラウド型は、初期投資を抑えて迅速に導入でき、継続的なアップデートにより常に最新機能を利用できます。また、企業の環境に応じて、オンプレミス型とクラウド型を組み合わせたハイブリッド環境も構築でき、ビジネス戦略に最適な導入形態の選択が可能です。
UIの向上
SAP S/4HANAでは、「SAP Fiori」と呼ばれる新しいユーザーインターフェース(UI)が採用されています。
直感的で使いやすいデザインにより、ユーザーの学習コストを低減し、生産性の向上が可能です。レスポンシブデザインにも対応しており、PCだけでなく、スマートフォンやタブレットなどさまざまなデバイスで、場所を選ばず快適な業務を実現できます。
SAPの2027年問題への対策を成功させるポイント

SAPの2027年問題への対策を成功させるには、綿密な準備と戦略的なアプローチが不可欠です。
対策を成功させるために重要な、3つのポイントを解説します。
早期の計画立案と現状分析
SAPの2027年問題への対策には、多くの時間とコストがかかるため、早期の計画立案が不可欠です。
まずは現行システムの詳細な分析を行い、カスタマイズの範囲や使用しているモジュール、データ量、連携システムなどを把握します。並行して、現在の業務プロセスを見直し、非効率な部分や改善点を洗い出すことも重要です。
早期の着手によって、十分な準備期間を確保でき、移行に伴うリスクを最小限に抑えられるでしょう。
自社に適した移行戦略の策定
SAPの2027年問題への対策には、先に紹介したSAP S/4HANAへの移行や他のERPシステムへの移行、延長保守の利用など、複数の選択肢があります。
自社に最適な移行戦略を策定するためには、ビジネス規模やITリソース、将来のビジョンなど、さまざまな要素を考慮した判断が不可欠です。ERPシステムの移行を単なるシステム更新と見るのではなく、ビジネスを変革する絶好の機会と捉え、長期的な競争力強化につながる選択が成功のカギとなります。
カスタマイズの最小化
SAP S/4HANAや他社のERPへの移行を円滑に進めるためには、カスタマイズを最小限に抑えることが重要です。
過度のカスタマイズは移行の複雑性を増し、コストとリスクを高める要因となります。業務プロセスをできる限り標準機能に合わせることで、移行の複雑性を低減でき、スムーズな移行やメンテナンスが可能です。
ただし、自社の競争力の源泉となる重要な業務プロセスは、必要に応じてカスタマイズを検討しましょう。
まとめ|SAPの2027年問題を乗り越えてエンジニアとして成長

2027年が近づきつつある中、SAPの2027年問題に直面する企業は選択を迫られています。
SAPの2027年問題は企業にとって大きな課題ですが、同時に業務プロセスの改善やDXを進める機会と捉えることもできるでしょう。移行は容易ではありませんが、早期の計画立案や適切な移行戦略の策定、カスタマイズの最小化などのポイントを押さえることで、成功の可能性を高められます。
SAPの2027年問題への対応は難易度の高いプロジェクトですが、困難を乗り越えたときにはエンジニアとしての成長が期待できるでしょう。