掲載日:2024/11/13

ブロックチェーン技術の進化は目覚ましく、その応用範囲はますます広がっています。その中でも、いま注目を集めている分野の1つが「DePIN(ディーピン)」です。
DePINは、ブロックチェーンを活用して、私たちの身の回りのインフラの在り方を根本から変えようとする革新的なアプローチです。
本記事では、DePINの特徴やメリット・デメリット、代表的なプロジェクト、将来性をわかりやすく解説していきます。
DePIN(ディーピン)とは

DePINとは、ブロックチェーン技術を活用して、現実世界の物理的なインフラを分散型で管理・運営する新しいアプローチです。「Decentralized Physical Infrastructure Network」の略称で、読み方は「ディーピン」、日本語では「分散型物理インフラネットワーク」と訳されます。
DePINのいう物理インフラとは、現実世界で利用される通信機器やコンピュータのリソース、エネルギー関連設備などのさまざまな機器や設備のことです。DePINは、個人や企業が所有する機器や設備を、分散型ネットワークに接続して資源を提供することで、より透明性の高い公平なインフラの実現を目指しています。
DePIN(ディーピン)が注目される背景
DePINはまだ発展途上であるものの、エネルギーや交通、通信など、さまざまな領域での活用が期待されています。
現代のインフラは、特定の企業や組織によって中央集権的に管理・運営されてきました。例えば、大企業によって運営されているクラウドのコンピュータリソースや通信網などがその代表です。中央集権型のインフラには効率性やスケールメリットなどの利点がある反面、単一障害点のリスクやプライバシーの懸念、特定の企業による収益の独占などの問題も抱えています。
DePINは中央集権型の問題を解決し、より公平で持続可能なインフラの在り方を提示するものです。インターネット世界がブロックチェーン技術によってWeb2.0からWeb3へ移行していくように、DePINによって現実世界のインフラも分散化が進む可能性を秘めています。
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DePIN(ディーピン)の特徴

インフラを分散化するDePINには、従来の中央集権型のインフラとは異なる、さまざまな特徴があります。
DePINの主な3つの特徴を見ていきましょう。
ブロックチェーン技術による分散型管理
DePINの大きな特徴の1つに、ブロックチェーン技術を使ってインフラを分散管理する点があります。
ブロックチェーンは、特定の管理者がいなくても、分散された複数のコンピュータがルールに基づいて安全にデータを記録する技術です。ブロックチェーン技術とインフラを結びつけることで、従来のように特定の企業がインフラを独占的に管理する代わりに、複数の参加者が協調してインフラを運営する仕組みを可能にしています。
参加者の機器やリソースを活用
DePINでは、ネットワークの参加者が所有する機器や設備、リソースなどを活用する点も大きな特徴です。
例えば、個人のパソコンのCPUやストレージの空き領域、家庭のWi-Fiの未使用帯域などが挙げられます。大企業が巨額のコストをかけて大規模なインフラを構築するのではなく、多くの人々が少しずつ機器やリソースを提供し合い、大規模なネットワークを形成するのです。ネットワークに参加した機器やリソースは、ブロックチェーン技術によりルールに従って運用され、透明性と信頼性が確保されます。
暗号資産(仮想通貨)によるインセンティブ
暗号資産による参加者へのインセンティブも、DePINを支える重要な要素です。
インフラを保有する個人や企業にネットワークへの参加を促すためには、インセンティブが欠かせません。DePINでは、参加者へのインセンティブとして暗号資産(仮想通貨)が配布されます。暗号資産を受け取った参加者は、DePINプロジェクト運営に関与する権利を得たり、市場で売却して利益を得たりすることが可能です。
プロジェクトが成長しエコシステムが拡大すれば、暗号資産の価値も上昇して参加者にも利益が還元されます。
DePIN(ディーピン)のメリットとデメリット

社会のさまざまなインフラを分散化するDePINには、従来の中央集権型インフラの課題を解決するメリットがある一方、特有のデメリットもあります。
主なメリットとデメリットを解説します。
DePIN(ディーピン)のメリット
DePINには、分散型のインフラであることによる、さまざまなメリットがあります。
まず、従来の中央集権型のインフラでは、単一障害点での機器の故障やサイバー攻撃などによって全体が停止するリスクがありました。一方、多数のノードで構成される分散化されたDePINでは、一部が停止しても全体の稼働には影響しません。
また、参加者の機器やリソースを効率的に活用し、ブロックチェーンで自動運用することで、大規模なインフラ構築や保守にかかるコストを大幅に削減できます。これにより、高性能なインフラを低コストで提供することが可能です。
さらに、従来は一部の大企業がインフラから得られる利益を独占していましたが、DePINでは参加者が貢献度に応じて公平に報酬を得られます。インフラの運営を民主化し、持続可能なエコシステムの実現が期待されています。
DePIN(ディーピン)のデメリット
メリットの一方で、DePINには従来の中央集権型のインフラにはない、特有のデメリットもあります。
まず、取引量が処理能力の限界を超えると滞留や手数料の高騰が発生する、ブロックチェーン共通のスケーラビリティ問題です。DePINも例外ではなく、エコシステムが拡大して多くのユーザーが利用するようになると、問題が顕在化する可能性があります。
また、DePINは新しい仕組みであるため、現在の法規制の枠組みでは対応できない部分が多く、プロジェクトの運営に不確実性をもたらすことも懸念材料の1つです。さらに、暗号資産の価格が急激に下落した場合、参加者の離脱を招き、エコシステムの縮小や安定性の低下を招く可能性もあります。
このように、発展途上のDePINにはデメリットも多いため、技術の進歩や法規制の整備などによって克服していくことが期待されます。
DePIN(ディーピン)の代表的なプロジェクト
ここまで、DePINの特徴やメリット・デメリットを解説してきました。しかし、まだ具体的なイメージが湧かない人も多いかもしれません。
実際のDePINプロジェクトを見て、より理解を深めましょう。
Filecoin(ファイルコイン)
Filecoin(ファイルコイン)は、DePINという言葉が生まれるよりもかなり前から稼働している先駆的なプロジェクトです。
Filecoinは分散型のストレージネットワークで、GoogleDriveやOneDriveのようにネットワーク上にファイルを保存できます。ただし、ブロックチェーンで動作しているため、GoogleやMicrosoftのような中央管理者は存在しません。
Filecoinの参加者は、自分のコンピュータの空きストレージを提供し、その報酬として暗号資産FILを受け取ります。Filecoinは、ファイルが複数のノードに分散して保存されるため、セキュリティーやプライバシーの高さが特徴です。
RenderNetwork(レンダーネットワーク)
RenderNetwork(レンダーネットワーク)は、分散型のコンピュータグラフィックス(CG)レンダリングネットワークです。
世界中の参加者が、自分のコンピュータの余剰なGPU処理能力を提供することで、大規模なレンダリングネットワークを構築しています。RenderNetworkの参加者は、提供した処理能力に応じて、暗号資産レンダートークン(RNDR)を受け取ることができます。
RenderNetworkでは、映画やゲーム、3Dアニメーションなどを制作する企業やクリエイターが、高品質なレンダリングサービスを従来よりも低コストで利用できます。また、世界中の余剰なGPUリソースの有効活用による、環境負荷の低減も期待されます。
Helium(ヘリウム)
Helium(ヘリウム)は、分散型のワイヤレスネットワークを提供するプロジェクトです。
LoRaWANと呼ばれる低消費電力のワイヤレス通信技術とブロックチェーンを組み合わせて、IoTデバイス向けのネットワークを提供しています。参加者はHeliumの無線機を自宅に設置し、IoTデバイスがネットワークを利用するたびに、報酬として暗号資産HNTを受け取れる仕組みです。
Heliumは、低コストで広範囲をカバーする無線ネットワークを世界中に構築することを目指しています。参加者も報酬を受け取りながら、IoTの普及と利便性向上に貢献できます。
DePIN(ディーピン)の将来性

Web3の理念である中央集権型から分散型への移行は、暗号資産業界では注目を集めているものの、一般社会への広がりはまだ限定的です。しかし、DePINは現実世界のインフラと直接結びついているため、一般の人々にも理解されやすく、広く普及する可能性を秘めているといえるでしょう。
代表的なプロジェクトで紹介したFilecoinやRenderNetwork、Heliumなど、すでにいくつかの成功事例が出始めており、今後さまざまなインフラ分野との融合が期待されます。一方で、利用が拡大すると法規制との摩擦なども考えられるため、注視が必要です。
DePINはまだ黎明期にある技術ですが、その潜在能力は高く、今後の発展が期待されます。
まとめ|DePIN(ディーピン)でインフラの分散化が実現するか注目

DePINは、ブロックチェーン技術を活用してインフラを分散化する新しいアプローチです。
従来の中央集権型のインフラ運営の常識を覆し、高い耐障害性やコスト効率、公平な報酬分配などのメリットが期待できます。一方で、技術的な課題や法規制など、乗り越えるべきハードルが多いことも事実です。
DePINはまだ発展途上の分野ですが、将来のインフラの在り方を大きく変える可能性を秘めています。DePINの今後の進化と普及に要注目です。