掲載日:2024/11/1

OpenAIの『ChatGPT』やGoogleの『Gemini』などの生成AIを使ったことがある人は多いでしょう。どんな分野の話題にも答えてくれる、とても便利なツールです。これらは『大規模言語モデル(LLM)』と呼ばれ、膨大な量のデータを学習することで幅広い分野に対応しています。
一方で、大規模言語モデル(LLM)とは対照的なアプローチにより、特定の分野に特化し、軽量さと効率性を追求した『小規模言語モデル(SLM)』への注目も集まっています。
本記事では、小規模言語モデル(SLM)の基礎知識からメリット・デメリット、活用分野までをわかりやすく解説します。
小規模言語モデル(SLM)とは

『小規模言語モデル』とは、生成AI分野の言語モデルの一種で、少ないパラメータとデータセットで学習された自然言語モデルのことです。「SmallLanguageModels」を略して『SLM』とも呼ばれます。
生成AIとして有名なOpenAIの『ChatGPT』やGoogleの『Gemini』は、小規模言語モデル(SLM)とは対をなす大規模言語モデル(LargeLanguageModel:LLM)に分類されます。小規模言語モデル(SLM)は大規模言語モデル(LLM)と比較してパラメータやデータセットが少なく、軽量なモデルです。代表的な小規模言語モデル(SLM)の生成AIにMicrosoftの『Phi-3』やGoogleの『Gemma』などがあります。
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小規模言語モデル(SLM)と大規模言語モデル(LLM)の違い

小規模言語モデル(SLM)と大規模言語モデル(LLM)の大きな違いは、パラメータの数にあります。大規模言語モデル(LLM)が数百億から数兆のパラメータを持つのに対して、小規模言語モデル(SLM)のパラメータ数は数百万から数十億程度です。
パラメータとは、ディープラーニングのニューラルネットワークの各層に存在する重みとバイアスなどのことで、モデルの性能や予測能力に影響を与えます。一般的に、パラメータ数が多い大規模言語モデル(LLM)ほど複雑なデータパターンを学習する能力が高く、広範なタスクに対応可能です。一方、パラメータ数が比較的少ない小規模言語モデル(SLM)は汎用性が低いものの、特定の分野に特化することで軽量化や高速化を実現できる特徴があります。
小規模言語モデル(SLM)の開発が進められている理由

一見すると、汎用性の高い大規模言語モデル(LLM)があれば、その下位互換ともいえる小規模言語モデル(SLM)は不要に思えるかもしれません。
しかし、大規模言語モデル(LLM)は文字通り規模が大きいためクラウド経由でサービス提供されることが多く、膨大な計算処理によって応答にも時間がかかります。そのため、オフライン環境や、機密性の高い情報を扱う場合には、大規模言語モデル(LLM)の利用は適していません。また、特定の分野に限った用途であれば、必ずしも汎用的なLLMである必要はありません。
このように、ローカル環境での利用や特定の用途に限った利用では、小規模言語モデル(SLM)に優位性があります。小規模言語モデル(SLM)は軽量で高速な処理が可能なため、効率的な運用も可能です。このような理由から、小規模言語モデル(SLM)の開発が積極的に進められています。
小規模言語モデル(SLM)のメリットとデメリット

小規模言語モデル(SLM)の特徴や開発が進められる理由がわかったところで、そのメリットとデメリットを見ていきましょう。
小規模言語モデル(SLM)のメリット
まずは、小規模言語モデル(SLM)の3つのメリットを解説します。
オンプレミス環境やエッジデバイス上で動作可能
小規模言語モデル(SLM)の大きな利点は、大規模言語モデル(LLM)に比べてパラメータが少なく軽量なため、クラウドではなくローカル環境に導入できる点です。オンプレミス環境や、スマートフォン・IoTデバイスなどのエッジデバイスに小規模言語モデル(SLM)のアプリケーションを導入すれば、直接利用できます。クラウドにデータを送信しなくても使えるため、機密性の高い情報を扱う企業でも安全に利用可能です。また、デバイス上でも処理できるため、応答速度の向上も期待できます。
特定分野で高い精度
特定の分野で高い精度が期待できる点も、小規模言語モデル(SLM)のメリットの1つです。小規模言語モデル(SLM)は汎用性を犠牲にする代わりに、特定の分野のデータセットに特化して学習します。特定分野に絞ったデータセットを使用することで、学習過程での余計なノイズを減らし、対象分野に関する回答の精度向上が可能です。
また、データセットが限定されることで、大規模言語モデル(LLM)でしばしば問題となる『ハルシネーション』(もっともらしい嘘の回答を生成すること)のリスクも低減されます。
開発コストや期間の削減
開発者の視点で見ると、小規模言語モデル(SLM)は開発にかかるコストや期間を抑えられる点がメリットです。小規模言語モデル(SLM)はパラメータやデータセットの量が少ないため、大規模言語モデル(LLM)に比べてデータの収集・処理・学習にかかる時間を大幅に削減できます。また、計算リソースも少なくて済むため、ハードウェア費用や消費電力も抑えることが可能です。
これにより、資本力の大きなビッグテック企業だけでなく、中小企業やスタートアップ企業も参入しやすく、多様なサービスの登場が期待されます。
小規模言語モデル(SLM)のデメリット
一方で、小規模言語モデル(SLM)にはデメリットもあります。主なデメリットを2つ紹介します。
汎用性の低さ
デメリットの1つ目は、汎用性の低さです。小規模言語モデル(SLM)は、大規模言語モデル(LLM)に比べてパラメータやデータセットが少ないため、複雑な学習には向いておらず、対応できる範囲が限られます。特定の分野や用途に特化して学習しているため、その範囲を超えたタスクや質問に対しては適切な応答ができない可能性が高いでしょう。例えば、医療分野に特化した小規模言語モデル(SLM)は、今晩のおかずの献立を提案することは困難です。
利用者が小規模言語モデル(SLM)の特徴をしっかりと理解して、適切な用途で活用することが求められます。
高品質なデータが必要
2つ目のデメリットは、学習に高品質なデータが必要なことです。特定の分野に限定した少ないデータ量で学習する小規模言語モデル(SLM)にとって、データの質がモデルの性能に影響するため、高品質なデータが欠かせません。特に高い精度が求められる分野では、データの品質要求はさらに厳しくなります。しかし、専門性の高いデータは往々にして機密性も高く、収集や活用が難しい場合も少なくありません。
そのため、小規模言語モデル(SLM)の開発では、いかに高品質で専門的なデータを収集して活用できるかが重要な課題となります。
小規模言語モデル(SLM)の活用分野

ここまで見てきたように、小規模言語モデル(SLM)は特定の範囲に絞った用途に強みがあります。実際にどのような分野での活用が期待されているのでしょうか。
代表的な3つの活用分野を見ていきましょう。
医療や金融など高い機密性が求められる分野での利用
オンプレミス環境への導入が可能で特定分野に特化している小規模言語モデル(SLM)は、医療や金融など機密性や高い精度が求められる分野での利用に適しています。
医療機関や金融機関では、高いセキュリティ対策を求められるため、クラウドベースの大規模言語モデル(LLM)の利用は困難でした。また、命や財産に直結するため、ハルシネーションのリスクも回避しなければなりません。
ローカル環境で利用でき、特定分野で高い精度を持つ小規模言語モデル(SLM)であればこれらの課題の解決が期待できます。
スマホやIoTなどエッジデバイスでの利用
小規模言語モデル(SLM)は、計算処理に必要なリソースが少なく、消費電力も抑えられるため、スマートフォンやIoTデバイス上でも動作可能です。
例えば、スマートフォン上で動作するAIチャットボットなら、オフライン環境でも利用できます。また、IoTデバイス上で小規模言語モデル(SLM)が直接利用できることで、スマートホームや産業用IoTなど多岐にわたる用途で活用が期待されます。
このように、軽量な小規模言語モデル(SLM)はエッジデバイスでのAI利用を促進し、さまざまな場面での応用が可能です。
リアルタイムでの応答が必要なアプリケーションでの利用
小規模言語モデル(SLM)は、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションにも適しています。パラメータ数が少なく計算処理が軽量で、ネットワークを介さずローカルで処理できるため、高速な応答が可能です。
例えば、医療機関での一刻を争う状況や、異常を瞬時に検知して処理しなければいけないシーンなどで役立つでしょう。交通システムやセキュリティシステムなど、遅延が許されない場面でも、小規模言語モデル(SLM)は迅速な意思決定支援ツールとしての活躍が期待されます。
まとめ|特定の分野や用途に特化した小規模言語モデル(SLM)に注目

生成AIといえば、ChatGPTやGeminiのようなどんな質問にも答えてくれる大規模言語モデル(LLM)が有名です。しかし、これとは対照的なアプローチで、汎用性を犠牲にして特定分野に特化した小規模言語モデル(SLM)の開発も進んでいます。
小規模言語モデル(SLM)はパラメータやデータセットが少なく、軽量で計算リソースを抑えられるため、ローカル環境での動作が可能です。この特性を活かし、大規模言語モデル(LLM)の使用が難しかった、高度な機密性が求められる医療や金融、リアルタイム処理が必要なIoTデバイスなどでの活用が期待されています。
ChatGPTが急速に普及したように、小規模言語モデル(SLM)がさまざまな分野で一般的になる日も近いかもしれません。