掲載日:2024/07/05

エッジコンピューティングとは、通信経路上の末端(エッジ)あるいはその周辺に存在するコンピュータで各種処理を行うネットワークアーキテクチャのことです。エッジコンピューティングにはさまざまなメリットがありますが、課題も存在します。
この記事では、エッジコンピューティングの詳細を把握したい人を対象として、概要やメリットに加えて事例などを解説しますので、ぜひ参考にしてください。
エッジコンピューティング(edge computing)とは

エッジコンピューティングとは、通信経路に関するアーキテクチャのひとつです。
従来のアーキテクチャは、各端末から発生したすべてのリクエストをサーバーで処理するため集中型とも呼ばれます。昨今人気を集めているクラウドコンピューティングも集中型です。
一方でエッジコンピューティングは、通信経路上の末端(エッジ)あるいはその周辺に配置したコンピュータで各種処理を行います。さまざまなデータの源泉により近いエッジ側で処理を行う点が特徴です。

図表 世界のエッジインフラ市場規模(収益)の推移及び予測
出典:総務省 情報通信白書(令和5年版)
総務省が毎年公開している上記の情報通信白書によれば、世界のエッジインフラ市場規模は年々成長を遂げており、2025年には36兆円に達すると予想されています。
このような事実からみても、エッジコンピューティングは注目すべき技術のひとつといえるでしょう。
なぜエッジコンピューティングが注目されるのか

エッジコンピューティングが注目されている理由は、クラウドコンピューティングなど集中型アーキテクチャの課題を解決する策のひとつであるためです。
2000年代後半、AWS社やMicrosoft社など大手IT企業がこぞってクラウドサービスの提供を開始しました。システムの運用方式について、日本政府もクラウドサービス利用を第一候補とすることを基本方針としています。さらにクラウドサービス市場は年々成長を遂げており、今後も右肩上がりの成長が見込まれています。
このように、高い将来性をもつクラウドコンピューティングですが、シェアが拡大するにつれてさまざまな課題(コスト、遅延、セキュリティなど)が明らかとなってきたのです。
一部の処理を各端末で行うエッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングが抱える課題を解決に導くことができるため注目を集めています。また、エッジコンピューティングが内閣府の提唱するSociety 5.0に必要不可欠な技術であるという点も、注目を集める理由のひとつといえるでしょう。
エッジコンピューティングのメリット

エッジコンピューティングには、さまざまなメリットがあります。ここではエッジコンピューティングがもつ4つのメリットを解説します。
処理の高速化・遅延の解消
エッジコンピューティングは、データの発生源により近い端末側で主な処理を行うため、処理の高速化や遅延の解消を期待できます。
スマートフォンやIoTデバイスが普及した現在、ネットワーク上のデータは増加の一途をたどっています。下図は、総務省が公開している情報通信白書に掲載された「世界のモバイルデータトラヒックの予測(デバイス別)」です。

出典:総務省 情報通信白書
デバイスの中でもスマートフォンの通信量は右肩上がりに増加しており、2028年には毎月314エクサバイトに達すると予測されています。将来的に、ネットワーク障害、遅延の発生などは現状よりも発生しやすい状況に陥っていくでしょう。さらにクラウドサーバーに対する負荷も増大していくはずです。
一方でエッジコンピューティングは分散的処理であり、エッジとなるデバイス側で処理を行うため、効率的な通信を実現可能です。そのため、処理の高速化をはじめ、遅延を解消できる点がメリットといえます。
セキュリティの向上
エッジコンピューティングは、データのやり取りを必要最低限に留められるため、セキュリティを向上できます。
クラウドサービスそのものは高いセキュリティを実現しています。しかし、人為的な設定ミスなどによるセキュリティ事故は後を絶ちません。そのような状況において、すべてのデータがひとつの場所に集中するクラウドコンピューティングはセキュリティリスクが高いといえます。
エッジコンピューティングは、エッジ側でデータを管理しつつ必要とするデータのみをクラウド側へ送信する仕組みとなっています。そのため、エッジコンピューティングを採用すればセキュリティを向上可能です。
通信コスト削減
エッジコンピューティングは、帯域が狭いネットワークでも問題なく稼働するため、通信コストの削減が可能です。
大量のデータを送受信する場合、広帯域なネットワークが必要となり、帯域を広げるにつれてコストも増加します。
その一方で、エッジコンピューティングは前述したとおり、最低限のデータをサーバーへ送信します。そのため、クラウドサーバーとエッジデバイス間でやり取りするデータを抑制可能です。結果として、通信コストの削減に寄与します。
信頼性が高いシステムの実現
エッジコンピューティングは信頼性が高いシステムを構築可能です。
信頼性とは、システムが故障やトラブルなどにより停止することなく、安定して稼働するかの指標を指します。クラウドコンピューティングの場合、クラウド側で障害が発生するとシステムはダウンしてしまいます。事実として、クラウドサービス側の大規模障害により、複数のサービスが停止するという事態も時折発生しているのです。
エッジコンピューティングは、主な処理をエッジ側で行うため、クラウドサービス側で障害が発生してもシステムを継続して稼働できる可能性を高められます。また、障害が発生したエッジ部分のみを切り離して運用を継続することも可能です。
このように、システム全体の信頼性を高めることができる点もエッジコンピューティングのメリットといえるでしょう。
エッジコンピューティングの課題

多くのメリットをもつエッジコンピューティングですが、課題も把握しましょう。
例えば、デバイスにかかるコストは、エッジコンピューティングの課題のひとつです。エッジコンピューティングは、エッジとなるデバイス側にも相応の性能をもつ必要があります。そのため、エッジに配置するデバイス数が増えるとコストが大幅に増加する点には注意が必要です。
また、デバイスに対する運用作業が増える点や、セキュリティリスクがゼロにはならない点もエッジコンピューティングの課題といえるでしょう。
エッジコンピューティングの事例

エッジコンピューティングは、既にさまざまな分野で導入が進んでいます。ここでは、エッジコンピューティングの事例を紹介します。
自動運転(コネクテッドカー)
自動運転(コネクテッドカー)は、エッジコンピューティングの代表的な事例のひとつです。
最近では自動車がインターネットにつながる「コネクテッドカー」が普及しつつあります。コネクテッドカーは自動運転をさらに高いレベルに押し上げる技術であり、インターネットを介して走行状況や車両状態に関する情報をやり取りすることで、より安全な運転を実現可能です。
しかし、自動運転はわずかな処理遅延であっても重大な事故につながる恐れがあります。なぜならば、最悪の場合は人の命を奪うリスクがあるからです。
エッジコンピューティングは必要最低限のデータのみサーバーへ送信するため、自動運転のように高いリアルタイム性や信頼性が求められるシステムの実現に役立っています。
小売業などの無人店舗
小売業などの無人店舗も、エッジコンピューティングが活用されています。
昨今、海外ではAmazon Go、国内ではトライアルGoなど無人型店舗(あるいはスマートストア)が増加しています。このような店舗では大量のカメラを配置しており、すべての撮影データをクラウドサービス上へアップすると莫大なデータのやり取りが発生し、コストがかかります。
これらの無人店舗はエッジに近い店舗内サーバーでデータ変換処理を行うことによって、全体的な通信量およびコスト削減に成功しています。
顔認証
最近ではカメラに顔を映しただけで認証が実施される「顔認証」を見かけるようになりました。この顔認証技術もエッジコンピューティングを活用しています。
入場ゲートなどに顔認証を活用する場合、わずかな時間で認証処理を完結させる必要があります。特にクラウドコンピューティングの場合、撮影したデータをサーバーへ送信→認証処理→レスポンス返却という処理が必要となるため、時間がかかりがちです。
しかし、エッジコンピューティングを活用すれば、エッジとなるデバイス側で認証処理を完了できるため、より高速な処理を実現できます。
まとめ:エッジコンピューティングを活用して社会の課題を解決しよう

本記事では、エッジコンピューティングの概要やメリットをはじめ、具体的な事例などを解説しました。
エッジコンピューティングは、処理高速化や遅延解消をはじめ、セキュリティ向上やコスト削減などさまざまなメリットを有しています。一方でエッジデバイス側の運用コストがアップする点には注意が必要です。
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