掲載日:2024/5/14

IoT技術が発展する中で、省電力で広範囲への通信が可能なLPWA(Low Power Wide Area)が注目されています。本記事では、LPWAの特徴や主な通信規格、活用事例について解説します。LPWAについて知りたいエンジニアの方やIoTに興味がある方に最後まで読んでいただきたいです。
LPWAとは

LPWAとは少ない電力消費で、広範囲へのデータ通信が可能な無線通信技術で、LPWAN(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれます。IoTやM2M(Machine to Machine)に適した通信方式の一つとして需要が高まっています。
Wi-Fiや5G、4G、Bluetoothなど他の通信方式との違いは、Wi-Fiが高速・高コストかつ狭域に適した通信方式であるのに対し、LPWAは低速・低コストかつ広域通信に適した通信方式です。4G/LTEは高速・高コストかつ広域に適しており、BluetoothやNFCは低速・低コストかつ狭域に適した通信方式であるため、それぞれ位置づけが異なります。
また、5Gが自動運転など遅延に対する許容度が低い場面に適しているのに対し、LPWAはスマートメーターなどリアルタイム性を要しない場面への活用に向いている点で棲み分けがされています。
LPWAの特徴
LPWAの特徴は大きく2つあります。一つは通信速度を抑えることにより、10km単位の長距離通信が可能な点です。Wi-FiやBluetoothの通信距離が100m程度であるため、LPWAが広域・遠距離通信が可能であることがわかります。
もう一つは、消費電力が少なく低コストでの運用が可能な点です。従来の通信方式はIoTデバイスで使用することを前提にしていなかったため、高速通信が行える一方で、消費電力が多いという問題がありました。LPWAはIoTデバイスで使用されることを想定した仕様であるため、少ない電力消費で長時間の稼働ができます。
LPWAが求められる理由
LPWAは幅広い用途での利用が期待されています。電力消費が少なく長時間の稼働ができ、長距離通信も可能なことから、効率化が求められるインフラ事業では、スマートメーターとしてガスや水道の使用量メーターの検針への活用が進んでいます。
また、物流業界ではトラックの位置情報トラッキング、農業においては土壌の水分量やビニールハウスの湿温度管理にも用いられており、活用が望まれる業界も多いです。
LPWAの種類

LPWAは非セルラー系とセルラー系に大きく分けられます。非セルラー系とは、電波法第4条第1号ただし書きに定められた発信する電波が著しく微弱なため、免許および登録が不要な周波数帯域(アンライセンスバンド)を利用するLPWAです。「特定小電力無線」とも呼ばれ、主な通信規格に「Sigfox」「LoRaWAN」「Wi-SUN」「ELTRES」などがあります。
セルラー系とは、免許および登録を必要とする周波数帯域(ライセンスバンド)を利用するLPWAです。現在はLPWAのためだけに免許の取得や登録を行った事業者ではなく、大手通信事業者がすでに国から免許を受けているLTEの基地局の通信網を一部LPWA用に仕様変更したものが多いです。セルラー系の主な通信規格には「NB-IoT(Narrow Band IoT)」が挙げられます。
LPWAの主な通信規格

ここからは、LPWAの主な通信規格を5つ紹介します。先に本章で紹介する5つの通信規格の特徴を一覧でまとめました。
(700MHz~3.5GHz)
下り 27kbps
下り 50kbps
それぞれの通信規格について順番に見ていきましょう。
NB-IoT
NB-IoTは、セルラー系LPWAでLTE帯域周波数の一部を利用するため、低コストかつ伝送速度の高い通信規格です。伝送距離は最長約40kmの長距離伝送が可能です。通信量は少ないですが、多くのデバイスを低コストで用いることができます。伝送距離やバッテリー寿命の長さ、コストの低さからスマートメーターへの活用に適しています。
Sigfox
フランスで実用化されたSigfoxは、非セルラー系LPWAの一つです。100bpsと低速なため、運用デバイスが増えるほど1台あたりにかかるコストが安価になります。狭帯域の周波数を用いるため、最長50kmの長距離伝送が可能で、消費電力も少なくバッテリー寿命も長いです。
一方で通信できるメッセージ容量が小さく、通信回数も制限されている難点もあります。そのため、頻繁に情報更新を行う必要がないビニールハウスの湿温度管理や、スマートメーターへの活用に向いています。
LoRaWAN
LoRaWANは、アメリカで実用化された非セルラー系LPWAです。伝送距離は他の規格と比べると短めで速度も低いですが、他の周波数帯域が混在している場所でも干渉を受けにくいため、安定したデータ通信が可能です。
Wi-Fiなど従来の通信規格では、複数の周波数帯が混在している場所では通信が安定しない場合がありました。この特徴を活かしてLoRaWANは、食品や物流倉庫の温度管理や商業施設などにおける設備の稼働状況の可視化などに用いられています。
Wi-SUN
非セルラー系LPWAのWi-SUNは、1km程度の長距離伝送が可能です。メッシュネットワークを採用しているため、電波が届きにくい場所への通信が可能でカバー範囲を広げやすいことから、街路灯やパーキングメーター、スマートメーターに活用されています。
また、通信速度は低速ですが障害物があってもつながりやすく、消費電力も少ないのが特徴です。
ELTRES
ELTRESは、ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社が開発した非セルラー系LPWAです。100km以上の長距離伝送が可能で、デバイスが時速100km以上の速度で移動しても通信性能に支障がないことや、独自技術によってノイズの多い都市部でも安定した通信が行える点が特徴です。
その特徴を活かして、トライアスロンやアドベンチャーレースにおける選手の位置情報管理やレンタサイクルなどで活用されています。
LPWAの活用事例

ここまで紹介してきたLPWAがどのように活用されているか、主な活用事例を3つ紹介します。
● スマートメーター
● マンゴー栽培
● 災害対策
どれもLPWAの特徴を活かした事例なので、順番に見ていきましょう。
スマートメーター
スマートメーターとは電気・ガス・水道の利用量を自動的に検針し、そのデータを収集する仕組みです。検針員が各家屋を回って利用量を確認する手間が省けるため、生活インフラのスマート化として導入が進んでいます。長距離伝送が可能で消費電力も少なく、バッテリー寿命の長いLPWAならではの活用方法といえるでしょう。
広島市では、DX推進の一環として令和5年度からスマートメーターの導入が進められています。水道局から離れた山間部の家屋にスマートメーターを設置し、検針にかかる時間の削減や漏水箇所の早期特定、災害時における施設管理の状況確認などに活用予定です。
マンゴー栽培
農業においては、ビニールハウスの湿温度管理や二酸化炭素濃度、日照不足といった栽培状況を監視するためにLPWAが導入されています。マンゴー生産量全国1位を誇る沖縄県では、宮古島マンゴーが冬の日照不足によって生育不良や色付きが悪くなり等級が低くなってしまう問題を抱えていました。
そこで、ビニールハウス内にLoRaWANを用いたセンサーデバイスを導入し、ハウス内の状況を監視しました。日照不足が検知されればLEDや反射シートによって光を補います。併せて二酸化炭素量分布を測定し、必要に応じて局所添加することで、生育不良の改善を目指しました。この取り組みによって、マンゴーの糖度向上と最高品質(A級品)割合を3倍以上に増加させることに成功しています。
災害対策
ゲリラ豪雨などが発生した際の水害対策にもLPWAは活用されています。短時間に大量の雨が降った際に、マンホールから水が氾濫する可能性を事前に感知して、自治体が住民に適切な避難指示を出すことが目的です。
神奈川県厚木市では、マンホールにセンサーを設置し、浸水状況を監視しながら降雨レーダー情報と連携して必要に応じた避難指示出す取り組みを行っています。マンホールに取り付けられたセンサーにLoRaWANを使用して、広範囲かつコストを抑えた通信が可能になっています。
LPWAの将来性

LPWAは低コストで広範囲にわたる通信が可能な技術であるため、今後さまざまな分野での活用が進むと予想されます。総務省の「令和4年版情報通信白書」では、LPWAモジュール向けICの出荷数が2021年には全世界で1.8億個ですが、2024年には約2倍の3.5億個に達すると見込まれています。
現在は5Gが新たな通信技術として注目されていますが、コストや遅延性などの違いがあるため、LPWAとは棲み分けられるでしょう。LPWAの活用は前段で紹介したようにすでに進んでいるため、LPWAの需要は今後さらに高まることが予想されます。
まとめ│LPWAでIoTの可能性を広げよう!

今回はLPWAの主な通信規格や活用事例、将来性などについて解説しました。LPWAは高速通信技術と比べて低コストで導入できることから、これまで通信技術の活用が難しかった分野で導入が進んでいます。その需要は高まっており、今後も回線数は増えていくと見込まれています。
当サイトでは今後もLPWAのような注目度の高いトピックを扱っていきますので、新しいテクノロジーや注目のトピックについて知りたい方に読んでいただけると幸いです。