掲載日:2024/04/09

近年新たに注目を集めている職業の一つに『ビジネスアナリスト』があります。『ビジネスアナリスト』とは、業務を幅広い視点で分析し、専門的な知見から企業価値を高めるための変革を推進するプロフェッショナルです。
IT技術の進歩により、ビジネスのあり方が大きく変化している現代にあって、今後ますます需要が高まる職種の一つとされています。
今回は、『ビジネスアナリスト』の概要を知りたいと思っている方に向けて、『ビジネスアナリスト』の役割や必要とされるスキル・資格など基本的なポイントを分かりやすく解説します。
『ビジネスアナリスト』とは
『ビジネスアナリスト』とは、業務分析(ビジネスアナリシス)の専門家であり、客観的な視点から企業が抱えるさまざまな課題を解決に導くための職種です。従来はビジネスの分野に特化していた専門職ですが、近年ではITの活用を含めて提案を行う場面も増えており、DXの推進にともなって活躍の機会も大きく広がっています。
ここではまず、『ビジネスアナリスト』の需要が高まっている背景や主な仕事内容について見ていきましょう。
『ビジネスアナリスト』が求められる理由
『ビジネスアナリスト』という職種そのものは、欧米では2000年前後から普及しており、今では専門職の1つとして定着しています。業務分析というと外部からの視点で行われるようなイメージもありますが、欧米では業務の変革や業務改善を進める中心的な存在として、企業内に在籍しているケースが多いです。
近年、日本においても『ビジネスアナリスト』が求められているのは、経営環境の複雑化が大きく関係しています。顧客ニーズの多様化やテクノロジーの進化などによって、現代の企業を取り巻く環境は先行き不透明な状態に陥っています。
こうした環境下にあって、市場動向や競合他社の分析なども含めて施策を提案してくれる『ビジネスアナリスト』の存在価値がますます高くなってきているのです。
『ビジネスアナリスト』の業務内容
『ビジネスアナリスト』の主要な業務は、ビジネス課題を解決するための現状分析を行い、明確な要件として定めたうえで、関係者に適切な形で伝えることにあります。たとえば、システム開発においては、経営層の考えを十分に理解したうえで、開発部門へスムーズにつなげるのが『ビジネスアナリスト』の役割です。
経営層は必ずしもシステムの専門的な知識を持っているとは限りません。解決すべき課題は把握していても、具体的にどのようなアプローチをすべきかが判断できないことも多いです。
そこで、『ビジネスアナリスト』が経営層とコミュニケーションをとり、どのようなシステムを求めているのかをくみ取ることで、開発部門とのスムーズな連携を図ります。このように、それぞれの専門家に対して必要な要件を伝え、業務変革全体をコーディネートするのが『ビジネスアナリスト』の仕事です。
現在のビジネス環境では、課題解決の手段としてITが活用される場面も多いですが、『ビジネスアナリスト』自体が個々のプロジェクトマネージャーやエンジニアの役割を担うわけではありません。特定の業務ではなく、業務全体を俯瞰して最適な解決策を探る点にアナリストとしての専門性が存在します。
『ビジネスアナリスト』の役割

ここでは、『ビジネスアナリスト』の役割について、4つのポイントからより詳しく掘り下げて解説します。
業務やサービスの可視化・課題分析・要件定義を行う
『ビジネスアナリスト』の主要な役割は、業務・サービスの可視化と課題の分析を通じて、正確な要件定義を行うことにあります。要件定義とは、実現すべき条件や満たすべき性能を明確にするプロセスのことです。
要件定義が不十分であれば、プロジェクト全体の方向性も定まりません。課題を解決するためには、現状を丁寧に分析した上で、「具体的に何を達成すれば解決されるのか」を明確に洗い出す必要があるのです。
そのため、『ビジネスアナリスト』はプロジェクトの成功そのものを左右する重要な存在といっても過言ではありません。
新たなビジネスプロセスを設計する
関係各所の意見をくみ取り、それぞれの要求を総合的に考慮したうえで正しい判断を行うことも『ビジネスアナリスト』の重要な役割です。具体的な業務としては、経営層と現場といった異なる階層の考えをすり合わせ、新たなビジネスプロセスを構築・提案することなどが当てはまります。
要望どおりのソリューションになっているかをチェックする
プロジェクトの失敗を避けるためには、エンジニアなどの各メンバーに正確な要求を伝えるとともに、導入後は要望どおりのソリューションとなっているかを確認することが重要です。こうしたソリューションの確認業務も、プロジェクト全体が見えている『ビジネスアナリスト』ならではの役割といえるでしょう。
プロジェクトにおけるコミュニケーションの中心的な役割を果たす
上記の3つの役割を担うためには、関係各所との綿密なコミュニケーションが欠かせません。専門分野や階層が異なるメンバーがしっかりと協力できるように、コミュニケーションの軸として関係づくりを行うのも『ビジネスアナリスト』の重要な役割です。
幅広い専門知識を活用しながら、丁寧に各所からのヒアリングを行い、組織全体がスムーズに機能するような根まわしが求められます。
『ビジネスアナリスト』に必要とされるスキル

これまで見てきたように、『ビジネスアナリスト』が携わる業務範囲はとても幅広いため、さまざまな専門的なスキルが求められます。『ビジネスアナリスト』に必要とされるスキルのなかでも、特に重要性の高いものを3つに分けて見ていきましょう。
幅広いビジネスの知識
プロジェクト全体を俯瞰する『ビジネスアナリスト』には、ビジネスに関する幅広い知識が必要となります。実際に仕事をする上では、経営層と対等にコミュニケーションがとれるだけのビジネス感覚や業界への理解がなければ務まりません。
一方で、現場の部門とスムーズにコミュニケーションを図れるように、携わる業界・業種・業務に関する専門的な知識も持っておく必要があります。また、『ビジネスアナリスト』としての専門性を発揮するためには、方法論への知識や最新のソリューションへの関心、マーケティングといったビジネス全般における幅広い理解も求められます。
情報を分析するスキル
最適なソリューションを提案するためには、さまざまなデータを統合して、正確に情報を分析できる能力も必要となります。クライアントが抱える課題を解消するには、表面化している問題だけでなく、その奥に隠された原因も突き止めなければなりません。
ヒアリングや現状の把握・分析などを踏まえて、どのような施策が有効であるかを考える分析能力が求められるのです。そのためには、創造的思考やシステム思考、水平思考といったさまざまな思考能力を磨く必要があります。
高いコミュニケーション能力
これまで見てきたように、『ビジネスアナリスト』は関係各所をつなぐハブのような役割を担います。立場が異なるさまざまな関係者と接し、関係を築いていく必要があるため、高いコミュニケーションスキルが求められるのも確かです。
そのためには、言語によるコミュニケーションスキルだけでなく、非言語コミュニケーションのスキルや傾聴力、適切な倫理感、ファシリテーションスキルといった多様な能力を高める必要があります。
『ビジネスアナリスト』として役立つ資格

『ビジネスアナリスト』として活躍するためには、幅広い能力を磨く必要があります。独学でスキルを磨こうとしても、何から手をつけるべきかが判断しにくいため、指針として資格の取得を目指すのも有効な方法です。
ここでは、『ビジネスアナリスト』としての仕事に直接的なメリットをもたらす資格を3つご紹介します。
CCBA
『ビジネスアナリスト』としてのスキルアップは、カナダに本拠を置く「IIBA」が発行する「BABOK」(バボック)という知識体系ガイドが特に役立ちます。BABOKでは、広範にわたる『ビジネスアナリスト』のスキルが6つの知識エリアと30のタスクに定義されており、体系的に学べる機会を提供しています。
知識エリア | タスク |
ビジネスアナリシスの計画とモニタリング |
ビジネスアナリシス・アプローチを計画する |
ステークホルダー・エンゲージメントを計画する | |
ビジネスアナリシス・ガバナンスを計画する | |
ビジネスアナリシス情報マネジメントを計画する | |
ビジネスアナリシス・パフォーマンス改善策を特定する | |
引き出しとコラボレーション |
引き出しを準備する |
引き出しを実行する | |
引き出しの結果を確認する | |
ビジネスアナリシス情報を伝達する | |
ステークホルダーのコラボレーションをマネジメントする | |
要求のライフサイクル・マネジメント |
要求をトレースする |
要求を維持する | |
要求に優先順位を付ける | |
要求変更を評価する | |
要求を承認する | |
戦略アナリシス |
現状を分析する |
将来状態を定義する | |
リスクをアセスメントする | |
チェンジ戦略を策定する | |
要求アナリシスとデザイン定義 |
要求を精緻化しモデル化する |
要求を検証する | |
要求の妥当性を確認する | |
要求アーキテクチャーを定義する | |
デザイン案を定義する | |
潜在価値を分析しソリューションを推奨する | |
ソリューション評価 |
ソリューション・パフォーマンスを測定する |
パフォーマンス測定結果を分析する | |
ソリューションによる限界を評価する | |
エンタープライズによる限界を評価する | |
ソリューションの価値を向上させるアクションを推奨する |
そして、IIBAが『ビジネスアナリスト』に関する認定資格として扱っているのが「CCBA」(Certification of Competency in Business Analysis)です。CCBAは『ビジネスアナリスト』試験の中級クラスであり、業務経験2~3年の『ビジネスアナリスト』が、自身の能力を証明するために活用できる資格でもあります。
CCBAの受験資格は次の5つです。
・過去7年間において『ビジネスアナリスト』としての実務経験が、3,750時間以上ある ・4年以内に21時間以上の専門能力の教育を受けている ・高校卒業以上またはそれと同等以上の資格がある ・上司、クライアント、CBAP資格保有者いずれかの2通の推薦状がある ・BABOKで定める6つの知識エリアのうち、2つ以上の知識エリアで900時間以上、または4つ以上の知識エリアで500時間以上の経験がある |
中級クラスとはいっても受験資格のハードルは高く、指定された分野での実務経験が細かく求められているのが特徴です。そのため、取得できればその時点で高度な能力と一定以上の経験を有していることが証明されます。
なお、IIBAでは初級クラスにあたる「ECBA」(Entry Certificate in Business Analysis)も扱われています。こちらは特に受験資格が設定されていないので、実務経験がない場合はECBAからチャレンジしてみるのも一つの方法です。
CBAP
「CBAP」(Certified Business Analysis Professional)とは、CCBAの上位にあたる資格です。目安としては、約5年以上の実務経験がある『ビジネスアナリスト』を対象としており、取得できれば高い専門性を持つことが客観的に証明されます。
具体的な受験資格は次の通りです。
・過去10年間で『ビジネスアナリスト』としての実務経験が7,500時間以上ある ・4年以内に35時間以上の専門能力の教育を受けている ・上司、クライアント、CBAP資格保有者いずれかの通の推薦状がある ・BABOKで定める6つの知識エリアのうち、2つ以上の知識エリアで900時間以上の業務経験がある |
統計検定
「統計検定」とは、統計や確率に関する専門的な知識やスキルが問われる資格のことです。難易度は4級~準1級・1級までの5段階に分かれており、たとえば2級では大学基礎統計学の知識や問題解決力が問われます。
また、統計検定には「統計調査士」や「データサイエンス」という資格もあり、それぞれ難易度別に段階分けされています。『ビジネスアナリスト』としての実践的なスキルを高めるためには、統計検定準1級やデータサイエンスの資格取得を目指すと良いでしょう。
データサイエンスでは、AIやビッグデータの活用に必要なデータハンドリングのスキルが磨かれるため、『ビジネスアナリスト』としての資質を高めるのに直接役立ちます。
『ビジネスアナリスト』の展望

海外では以前から普及している『ビジネスアナリスト』ですが、日本では専門職として十分に確立されているわけではありません。プロジェクトマネージャーやコンサルタント、個々のシステム部門の責任者が社内で同様の役割を担うケースが多く、専門家としての『ビジネスアナリスト』が活用される場面はまだ少ないのが現状です。
しかし、ビッグデータの重要性やDXが注目されるようになってきたことで、今後は「職業としての『ビジネスアナリスト』」も必要とされる場面が増えていくと考えられます。ITプロジェクトを成功させるには適切な要件定義が必要不可欠となるため、確かなスキルを持つ『ビジネスアナリスト』がいれば、組織として大きな競争優位性を確立できるでしょう。
まとめ:『ビジネスアナリスト』の役割や求められるスキルを理解して、スキルアップを目指そう

『ビジネスアナリスト』は、幅広い専門知識と分析能力を持ったビジネスアナリシスのプロフェッショナルです。欧米ではすでに20年以上前から普及している職業ですが、近年ではビジネス環境の変化によって、日本でも注目を集めるようになっています。
DXの推進にともない、ITスキルを持った『ビジネスアナリスト』は今後ますます活躍の機会を広げていくでしょう。『ビジネスアナリスト』として活躍するには、「多様な知識」と「高度な分析スキル」「コミュニケーション能力」などが求められます。
エンジニアから『ビジネスアナリスト』へのキャリアチェンジに興味がある方は、知識体系ガイドであるBABOKをもとに、関連する資格の取得も視野に入れながら、着実にスキルアップを目指しましょう。