掲載日:2024/02/01

ChatGPTをはじめとする生成AIの登場によって、ビジネスにAIを本格的に導入する企業も増えました。その中でChatGPTを開発したOpenAI社が目指すAGI(汎用人工知能)の開発も現実味を帯びてきました。また、ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長が2023年10月の同社主催イベントにてAGIについて「10年以内に実現する」と言及するなど、注目を集めています。
本記事では、AGIの概要や求められる背景、AGIが社会に及ぼす影響などを解説します。
AGI(汎用人工知能)とは
AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)とは、人間のように高い汎用性を持って幅広いタスクの処理が可能な、人間と同等もしくはそれ以上の知識水準を持つ人工知能です。ChatGPTのような文章生成や画像生成など幅広い用途に活用できる生成AIの登場によって、AGIの実現も見据えられるようになってきました。
AGIは特定のタスクに特化せず、経験から学習する能力を持ち、複雑な情報の中から最適な選択肢を選び取る判断能力を有しています。これによって、過去に経験したことのない状況下においても、柔軟な対応が可能です。AGIは、その汎用性の高さから様々な領域での活用が期待されています。
従来のAIとの違い
AGIと従来のAIとの大きな違いは、処理可能なタスクの幅と学習能力、新しい問題への対応能力の3点です。
従来のAIは文章や画像の生成など、特定のタスク処理に特化していますが、AGIは幅広いタスクに対応可能です。
学習能力においても、従来のAIは事前に学習した大量のデータからパターンや法則を学び、それに則ってタスク処理を行いますが、AGIは事前学習以外にも、自己の経験から学ぶ能力を持っています。
そのため、初めて直面する課題を前にしても、事前に設計されたプログラムに基づいて処理を行う従来のAIと異なり、自分で解決方法を模索することができます。
AGI(汎用人工知能)の活躍が期待されるシーン

AGIは下記のようなシーンで活躍が期待されています。
● 日本の労働力不足の解消
● DX化推進ニーズへの対応
● IT人材不足の解消
それぞれ詳しく解説します。
日本の労働力不足の解消
日本の人口は2008年をピークに減少が始まり、右肩下がりに減少が続いており、同様に労働人口も減少している状況です。総務省によると、労働人口は2050年に2014年と比較して2,000万人以上減少すると試算されています。労働力の減少は、国の経済活動を揺るがす大きな要因であり、このような状態を人口オーナス期と呼びます。
一方で、同じ総務省の資料では、日本の労働人口の約半分がAIやロボットに代替可能であると考えられています。またAGIは単純な労働力の代替だけでなく、既存の業務の生産性向上の面でも期待されています。このような背景から、AGIは人口減少による経済活動の停滞を覆す重要なテクノロジーとして期待が集まっています。
DX化推進ニーズへの対応
「2025年の崖」問題をはじめとするDX化推進を阻む課題に対応するためにもAGIが期待されています。
この問題は経済産業省が「DXレポート」内で提唱したものです。DX推進の阻害要因となっている既存システムを、2025年までに刷新しなければ、年間で最大12兆円規模の経済損失が発生するとされています。具体的には事業部門ごとに構築されたものや、過剰なカスタマイズがされてベンダーロックインがかかっているものです。
既にAIは、DX化推進に役立つことが期待されていますが、さらに対応範囲の広いAGIが実現すれば、より速いスピードでDX化が進められると見込まれています。
また、日本能率協会マネジメントセンター(JMAM)の調査によると、ビジネスパーソンのうち、66.6%が「対話型AI(ChatGPTなど)によるアドバイスや指導は、人間と比べて偏見がなく公正に感じる」という質問に対し「YES」と回答しました。このように、人間同士では質問した場合に角が立つ、素直に聞けないなどの障壁が取り除かれ、コミュニケーションコストを削減する面でのDX化も期待できます。
出典:日本能率協会マネジメントセンター「対話型AIの活用とコミュニケーションに関する実態調査」
IT人材不足の解消
慢性的なIT人材不足の解消にもAGIが求められています。経済産業省の「IT人材受給に関する調査」によると、2030年には日本のIT人材は最大79万人不足するとしています。
また、独立行政法人情報処理推進機構の「DX白書2023」では、DXを推進する人材が大幅に不足していると回答した企業は49.6%と半数近くの企業がDX人材の確保を十分に行えていない状況です。
このような日本におけるIT人材不足の問題も、人間と同じように情報処理が行えるAGIの登場によって解消されることが期待されています。
AGI(汎用人工知能)を構成する要素

次にAGIを実現させるために必要な要素を3つ紹介します。
● 機械学習
● 認知アーキテクチャ
● 認知ロボティクス
これら3つが高いレベルに発展することで、人間のように経験から学んだり、未知の状況に対応することができるようになります。それぞれ詳しく解説します。
機械学習
従来のAIだけでなく、AGIにも機械学習は必要です。AGIの機械学習ではディープラーニングと強化学習の2種類が併用されます。
ディープラーニングでは、膨大なデータを読み込んでパターンを学習し、分類や予測が行えるように訓練します。強化学習は、AGIにデータを与えて指示を出し、試行錯誤を繰り返しながら学習を行う方法です。
両者を組み合わせて、AGIは高水準の知能と状況に合わせて行動を行う人間らしい思考法の両方を獲得します。
認知アーキテクチャ
認知アーキテクチャとは、人間の認知機能をモデル化したものです。AGIの実現には、人間が物事を認知する仕組みを学習させることが必要です。
高次の思考、知覚、感情、運動制御などのプロセスを統合した認知機能を構築して、人間らしい意思決定のプロセスや思考法を獲得します。
認知アーキテクチャの学習には、プログラミング言語を用いる記号主義的なアプローチとベクトルを用いる分散表象的なアプローチなどがあります。
認知ロボティクス
認知ロボティクスは、ロボットを用いて人間の思考を学び、それによって周囲の環境についても理解することで、環境に適応した自律的な行動能力の獲得を目標とするものです。外部環境からのセンサー情報の解釈や目標設定・計画立案能力、行動の選択と実行といった認知プロセスの獲得によるアプローチが行われています。
AGIは、導入される場面や役割によって、形状や組み込まれる箇所が異なります。自分の置かれた状況や役割を認知した上で、人間との自然な対話や協調性を持って作業に取り組むことなどが求められるでしょう。
AGI(汎用人工知能)の登場は近づいている

幅広い分野への活用が期待されるAGIですが、実現するのは遠い夢の世界の話ではありません。本章では、AGIの登場が近づいていることがわかるトピックを紹介します。
ChatGPTの進化
生成AIとして有名なChatGPTは、登場時のテキスト生成AIから大きな進化を遂げています。2024年1月現在、有料版のChatGPT PlusではGPT-4Vにモデルをバージョンアップし、画像認識や画像生成、CSVファイルの分析、Pythonコードの実行といった機能が搭載されています。これによってChatGPTは文章以外の内容も入力可能なマルチモーダルAIとなりました。
ChatGPTが高い汎用性を獲得したことで、開発を行ったOpenAIからAGIの開発についても言及されています。同社は人類の繁栄のためにAGIの開発を目指すとしています。現在のChatGPTは、AGIにはまだ遠いかもしれませんが、汎用性が高く、今後の進化からも目が離せません。
ソフトバンクの孫正義氏も言及
ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長もAGIの登場について言及しています。同氏は、2023年10月に行われたソフトバンクのイベントにて、人類の10倍賢い「AGIの世界が今後10年以内にやってくる」と話しました。
AGIによって、産業だけでなく教育や人生観、人間関係も全てが変わるとした上で、ソフトバンクグループを世界で最もAIを活用するグループにしたいと意欲を示しています。
AGIに向けたAIの課題

次に、AGIの開発に向けた課題を紹介します。人間のような思考をAGIに獲得させるのは簡単ではなく、現状いくつかの課題が残っている状況です。
● フレーム問題
● チューリングテスト合格騒動問題
それぞれ概要を分かりやすくお伝えします。
フレーム問題
フレーム問題とは、AIがタスクを処理する際に情報の取捨選択が正しく行えずに思考がストップしてしまう問題です。
例えば、部屋の温度を人間にとって快適な温度に調整したい場合、空調機器が動作しているかや、窓の開閉、室内にいる人数、家具の配置などは必要な情報ですが、カレンダーの有無などは不必要です。しかし、AIには情報の取捨選択がうまくできず、考え出すときりがなくなり処理が止まってしまいます。
解決策として考えられるのが、必要な背景知識をAIに提供することですが、情報量が多くなってしまう上に、新しい状況への適応が難しくなってしまうのが課題となっています。
チューリングテスト合格騒動問題
AIの思考力を判断するチューリングテストでの合格騒動問題も、AGI開発における課題の一つです。
チューリングテストはAIのアウトプットが人間が考えた内容と同じ、もしくは見分けがつかないレベルかどうかを判定するテストのことです。審査方法は審査員が壁を隔ててAIと対話を行い、人間と判別されれば合格となります。
しかし、本テストでは実際にAIが人間と同じように思考して対話を行っているのか、そう見える表面的なアウトプットを行っているのかが判断できないため、人間のようにふるまえば合格できてしまうという欠陥がありました。
このようにチューリングテスト合格騒動問題を通して、そもそも何をもってAIが思考をしているのかは証明が難しいという課題が指摘されています。
AGI(汎用人工知能)が社会に及ぼす影響

AGIが登場すれば、社会は大きな変革を迎えるでしょう。本章ではAGIが社会に及ぼす影響について解説します。
2023年2月24日にOpenAI社のCEOサム・アルトマン氏が「汎用人工知能(AGI)についての展望」というロードマップを発表しました。この中で、AGIは人間よりも賢いAIであり、大きな利点をもたらす一方で誤用や社会混乱などのリスクも秘めていると述べています。ここからは、AGIが実現した際に考えるべき社会のあり方について見ていきましょう。
シンギュラリティ(技術的特異点)とは?
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人間より高い知識水準を持った知能を生み出せるようになる時点のことです。アメリカで広がった概念で、2045年にシンギュラリティに到達すると予測されています。
シンギュラリティが訪れた場合、人間がAIを制御出来なくなることや、人間の仕事がなくなりベーシックインカムが導入されるなど大きな社会変革が起こる可能性があります。
AGI(汎用人工知能)に関する規制の必要性
AGIにより社会が恩恵をうける一方で、技術の悪用を防ぐための法整備も重要です。個人情報保護やセキュリティの確保など、幅広い分野で対応が求められます。この点については、ソフトバンクグループ孫正義会長兼社長やOpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏も、人間がAGIを正しく使える社会を実現するための方法を模索する必要があると述べています。
一方で、過度にAGIに対する規制を厳しくしてしまうと、技術の発展を止めてしまうことになるため、適正な法整備が必要です。
まとめ│AGI(汎用人工知能)の登場に備えよう

今回はAGIの概要や求められる背景について解説しました。
AGIは従来のAIよりも汎用性が高く、人間よりも高い知識水準を有しています。そのため、現在の日本が抱える労働者不足などの問題の解決策としても期待されています。
一方で、AGIの開発にはまだいくつかの技術的な課題がある上に、AI規制などの法整備における議論も必要です。
今後もAI技術はめまぐるしい成長が予想されるため、AGI実現に向けた情報を引き続き注意深く見守りましょう。